みなさんこんにちは。森羅です。久しぶりですが本の紹介をしたいと思います。今回紹介しますのはライトノベル。電撃文庫で大賞を受賞した作品。鳩見すたさんの『ひとつ海のパラスアテナ』第一巻を紹介します。
1.あらすじ
透き通る海と、紺碧の空。世界の全てを二つの青が覆う時代、『アフター』。
女の子には珍しく『海の男』となったボクは両親の形見、愛船パラス号で荷物を届けるメッセンジャーとして暮らしていた。そんなボクに、大海原は気兼ねなくとびきりの『不運』を与えてくる。
『白い嵐』。
それは、海に浮かぶ全てを破壊した。
愛船パラス号を失い、ボクが流れ着いたのは孤立支援の浮島。食料も水も衣服も何も無い。あるのは、ただただ広がる『青』。
ここに、助けは来るのか、それとも――
それは、いつ終わるとも分からない。
ボクの『生きるための戦い』。
(表紙より抜粋)
主人公のアキは14歳、女の子ですがセーラー服を着て男のふりをして、依頼人から頼まれた荷物を送り届ける『メッセンジャー』として両親の形見であるパラス号という船に乗って暮らしています。ある日、サクラジマの島長から頼まれた荷物を届けにオウムガエルのキーちゃん船長を携えたアキは、船行中に恐るべき『白い嵐』に遭遇し小さな浮島へと取り残されてしまいます。脱出しようにもパラス号は寝ている間にどこかへ流されていた。人はいない、物資も食料もほとんどないこの島で、アキとキーちゃん船長の生きるための戦いが始まります。
このように書くと無人島でサバイバルする話と思われそうですが決してそうではありません。ネタバレになるので詳しいことは書けませんが、ちゃんと海に出て航海もしますよ。
2.世界観
この物語の世界観ですが、タイトルからも想像できる通り、世界がひとつの海となって繋がった世界です。かつての文明はみな海に沈み、見渡す限り青い海と水平線が広がる世界をアフター。それ以前の世界をビフォアと呼んで区別しています。
文明が全て海の底に沈んでしまったために、アフターではあらゆる物資が貴重品です。アキが身に着けているセーラー服も父親から譲り受けたもので貴重品です。
そして、金銭という概念はあるものの統一された通貨がないため交易の基本は物々交換になります。
海の上には街や村の代わりに小さな浮島が集まってできたフロートと呼ばれるものが存在し、そこで人々が暮らしています。
3.登場人物
アキ・・・・・この作品の主人公。14歳。女の子だが一人称はボクで普段はセーラー服を着て海の男としてメッセンジャーとして各地をパラス号で回っている。自分が男に生まれたら良かったと思っている。両親は海賊に襲われ生死不明であり、現在唯一の家族はオウムガエルのキーちゃんのみで心のよりどころとなっている。両親から教わったロープワークや海に関する知識が豊富でボートの扱いには長けている。その反面その他の知識や常識には疎く、世間知らずなところがある。純粋で前向きな性格で自分の仕事に生きがいを持っている。
キーちゃん・・・・・アキと共にパラス号で航海を続けるオウムガエル。オウムのように聞いた言葉を喋るという特徴がある。アキからはキー船長と心の中で呼ばれている。アキにとっての話相手であり心の拠り所。アキがスピアガンを放つ時に「ディン」と発する。アキを生き残らせるために重要な使命を果たすことになるが・・・・・。
ドリル氏・・・・・・アキの同業者の筋肉隆々のメッセンジャー。船につけるドリルにこだわっている。アキのことは本気で男と思っており、会うたびにハル少年などと名前を呼び間違える。ちなみにセーラー服のスカートの中身はノーパンである。すげぇ。
タカ・・・・・・アキが出会った金髪の美少女でアテナ号の持ち主。職業はフッカー(風俗関係?)で寝物語を得意としている。料理も上手で船で育てた野菜を使った料理をアキに振る舞う。気が強く姉御肌。アキのことは容姿や性格を含めて気に入っている。職業柄様々なことについてアキより詳しいが、ボートの操縦や海に関する知識はほとんどなく、そこはアキに任せている。寂しがり屋な一面もある。
4.感想
この本を読んだ感想としては、まず、帯にも書かれているんですが、生きるということの原初的な意味を教えてくれる作品だったと思います。全てが海に沈んでしまった世界というと何も希望がない世界に思えてきますが、この物語に登場する人物は主人公も含めて皆前向きに、ちゃんと生きる意味をもって暮らしています。そして、どの人物も希望を最後まで捨てません。海賊に捕まったアキの両親やタカ、無人の浮島で過ごしたアキ、皆が最後まで必死にもがき希望を見つけようとします。それが良かったですね。また、浮島やフロートの人々もいつ集まった瓦礫や漂流物がバラバラになって、居場所がなくなってしまうかも分からないのに、それを宿命として受け入れて明るく暮らしています。荒廃的な世界観ではあるのですが登場人物からは世界に対する絶望や暗さと言ったものは全く感じませんでした。そのため最後まで暗い気持ちにならずに読めました。
そして、次にこの物語の魅力は二人の女の子の成長ですね。途中からアキとタカの二人で旅することになるのですが、タカは何でも知っているし、アキはボートを自在に操れるからといっても二人はまだ子供なのです。子供二人だけで海の上で降りかかる困難に立ち向かわなくてはいけない理不尽。そして極悪非道な海賊たち。様々な危機を二人寄り添うことで乗り越えていく。そして、数々の困難を乗り越え成長した二人は別々の生きる意味を見つける。ベタな展開ではあるけれどもそこが良かったですね。第二巻では二人はどうなるのか気になるところです。
5.まとめ
今回は電撃文庫で大賞を受賞した作品『ひとつ海のパラスアテナ』を紹介しました。
いやー良かったですね。私はこういう作品が好きなので第二巻も読んでみようと思います。
世界が海におおわれているというと青の6号のようなSF的な世界観を想像してしまいましたが、こんな世界もありだな~と思いました。それでは。