瀬尾つかさ著『ウェイプスウィード ヨルの惑星』を読んだ感想と紹介。

さて、今回紹介する本は瀬尾つかささんの『ウェイプスウィード ヨルの惑星』です。この本は去年の8月に読みました。表紙のイラストに惹かれて、買ってしまいました。未来の地球を描いたSF作品で、一部設定が分かりづらい部分があるものの、とても面白かったので紹介したいと思います。

1.あらすじ

時は25世紀。海面上昇により地表の大半を水に覆われた地球では、ミドリムシの変異体であるエルグレナが人類に代わって生態環境を支配していた。その地球の調査に宇宙コロニーからやってきた研究者ケンガセンは、島嶼部で暮らす少女ヨルと出会う。2人は知性を持つとされる、エルグレナと菌類が融合した巨大な白い花であるウェイプスウィードの調査に乗り出すが・・・・

地表のほとんどが海になっているという設定は他のSF作品でもよくある設定ですが、人類が生態系の頂点ではなくなっているというのが面白いところだと思います。

2.世界観

人類のほとんどが地球を脱出して宇宙にあるコロニーで暮らす時代。地球は保護すべき故郷であり、不可侵であるべきという基本方針がとられているため地球への侵入は容易ではありません。

地球に暮らす現地住民もわずかながらおり、島嶼部で主に生活しています。知識の塔を中心とした独自の支配体型が出来上がっている島もあります。そして海面上昇により地表のほとんどが水面に覆われています。

木星圏と地球圏のコロニーで文化や技術、考え方に差があります。地球圏のコロニーの人間はクローンの使用が許されており、本人が死亡すると黒い箱のような装置で記憶を回収し、新たに起動したクローンに記憶を移すことで、死んだ本人と同一人物として扱われます。

しかし、木星圏生まれの主人公ケンガセンはクローンの使用を許可されていません。

さらに、コロニーの人間はソフトウェアを体内にインプラントしており、体臭から相手の感情を読み取ったりすることができます。しかし、これも木星圏生まれのケンガセンは何一つインプラントを行っていません。

3.主な登場人物

ケンガセン

この作品の主人公で木星圏生まれ。物語開始時点で32歳。地球圏コロニーとのカルチャーショックなどに悩みつつも、地球に生息するウェイプスウィードという知性をもつ巨大な花を研究する教授の下でそれを研究していました。そして、生態調査のために環境保護団体の反対を押し切って、地球に向かっていたところ、シャトルが事故を起こし、脱出カプセルで彼一人だけ脱出。海をさまよっていたところを現地住民のヨルに助けられ、紆余曲折あって彼女とウェイプスウィードの調査に向かうことになる。

・ヨル

地球の島嶼部に暮らす現地住民の女の子。巫女の一族で知識の館にドラという本型のAIと一緒に暮らしている。幼いころから本を読んでいるため知識が豊富で聡明な少女。村人が信じていることが迷信だということを知っている。そして知識の館を中心とした支配体型にも疑問を抱いている。そんなある日、脱出ポッドで海を彷徨っていたケンガセンを助け、彼と共にウェイプスウィードを調査することになる。そして、ある陰謀に気づく。

4.読んだ感想

この物語は描き下ろしも含めて3部構成となっています。最初の話では調査のために地球に赴いたケンガセンとヨルとの出会い、ウェイプスウィードの調査に向かい、それらの秘密や島の人々の陰謀が明らかとなり最後に重大な事件が起こるという話。この話は読んでいてゾッとしましたね。ウェイプスウィードの目的もそうですが、SFチックな怖さがありました。知性があるけど人間とは全く違う生物のことを理解しようとすることの難しさなどをよく描けていると思います。

2番目の話では、事件により失職したケンガセンの元にイシラウ・コカタという人物が現れ、地球の現地住民とコロニーの人間との間に立つ調停官になってもらいたいと頼まれる。金欠だったこともあり、快く引き受けたケンガセンは再び地球へと向かい、ヨルと再開する。ヨルは彼の補佐となり、共にトラブルが起こっている現場へと向かうというもの。そこで現地住民やコロニー側の人間と苦労してコミュニケーションをとり、問題を解決する様子が描かれます。立場や環境が違う人とコミュニケーションを取ることの難しさがこの話を読んでいてよく分かりましたね。そしてヨルちゃんが最後にとんでもない方法でウェイプスウィードとコミュニケーションを取ろうとします。

3番目の話ではコロニーの内部で政治的抗争が起こり、ケンガセンとヨルは命を狙われることになり、ミムトトという電脳体の傭兵と共に潜水艦で水中を逃げることに。そこで、2話でエルグレナを体に取り込んだヨルの体に変化が起こり始める。読んでいてドキドキハラハラする逃走劇と、組織の陰謀と、政治的なやり取りが絡むラストにふさわしい話でした。ウェイプスウィードをまさか味方につけるとは。ヨルが最後に凄いことになりましたけど、あれでこれからやっていけるのだろうかと思いましたね。

最後に全体的な感想ですが、この作品では、単にSF的な話だけではなく、他人との関わりにおける煩わしさ、環境保護団体などの組織的な陰謀や政治的抗争など様々な要素が描かれていて、とても興味深く読むことができました。そして主人公が雇い主である教授が運勢を気にして毎日金の指輪をはめているのを悪趣味だと思っているけど、言うと仕事に支障が出るから言わないなど、描かれている人間が非常にリアリティがあり、感情移入がしやすかったです。

私の拙い文章では、この作品を上手く伝えきれていないと思いますが、興味を持った方は是非とも読んでみることをお勧めしますよ。それでは。

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