隠された想いを巡る青春ミステリー 天沢夏月作『そして、君のいない九月がくる』を読んだ感想

お久しぶりです。今回は天沢夏月さんの作品、『そして、君のいない九月がくる』を読んだ感想を書きたいと思います。

物語はまず、ケイタという少年の死から始まります。ケイタは横山グループと呼ばれる仲の良い五人組の中に属していました。ケイタといつも一緒にいた花野美穂、横山大輝、榎本瞬、西園莉野はそのショックから立ち直れないまま呆然とした夏休みを送っていました。

それはそうですよね。いきなりクラスの仲良かった同級生が死んだらすぐに受け入れられるはずありません。

ケイタは夏休みに入る前の7月16日から行方不明となっており、それから三日後、烏蝶山(からすちょうやま)の深い森の奥で死体が見つかったという。崖からの転落死であり自殺の可能性は低いらしい。しかしそこは美穂たちがキャンプに行く予定の場所でした。

ケイタはどうして一人でそんな場所へ行ったのか、そしてどうして死んだのか?よりにもよってキャンプを予定していた場所で。このことが残された4人にはどうも引っ掛かっていました。

そんなある日、ケイタと幼馴染だった花野美穂の家のインターホンの家が鳴り、美穂が玄関の扉を開けてみると、そこにはなんと、死んだはずのケイタにそっくりな少年が立っていました。そしてその少年は言いました。僕は死んだはずのケイタのドッペルゲンガーのケイであると。

死んだはずの人物とそっくりな人物が現れただけでも動揺するのに、さらにはその人物が自分はドッペルゲンガーであるなどと言われては混乱は余計に大きくなるばかりです。しかしさらにケイは花野美穂にこんなお願いをしました。それは――

 死んだケイタの願いを叶えてほしい。」

どうやらケイが来た理由は亡くなったケイタの願いを叶えて欲しかったからなのでした。

ドッペルゲンガーという存在が現れただけでも困惑する状況だというのにさらにこんなお願いをされてはたまりませんね。どうしてこんなお願いをするのか、自分がケイタのドッペルゲンガーだというのであれば、人に頼まずに、自分一人で叶えてあげればいいじゃないかと反論する花野美穂。まあ、ごもっともな意見だと思います。しかし、ケイはそれではダメだという。自分一人ではケイタの願いは叶えられないと。だから一緒にケイタが亡くなった烏蝶山までついてきて欲しいと。後から分かったことですがドッペルゲンガーのケイには実体がなく、物質に干渉することができないのでした。

どうするか迷った美穂は結局、考えた挙句、一人でもケイタの死の真相を解明しようと、そしてケイタの願いを叶えてあげるべく、ドッペルゲンガーのケイと共に烏蝶山に向かうのでした。しかしその時、仲良しグループの西園莉乃、横山大輝、榎本瞬も同じ考えで、結局4人とドッペルゲンガー一体で烏蝶山に向かうのでした。

ここまでが序章で、その後からは各章ごとに榎本瞬、横山大輝、西園莉乃、花野美穂と一人ずつ視点が移っていく構成となっています。一人一人の視点でケイタがどういう人物であったのか、そして、ケイタとその人との関係性や秘められた思い、秘密などが徐々に明らかとなっていきます。

各人が抱くケイタへの思いや距離感、関係性、嫉妬心などがケイタという人物を通して明らかになっていくこの手法はとても鮮やかで、一人一人の思いや感情に納得がいくし、どの人物にも感情移入できました。人間らしい感情の吉備が瑞々しく、そして繊細に描かれているのに文章は分かりやすくとても読みやすい作品でした。

最後の方にちょっとしたどんでん返しというか、ちょっと不思議な感じのオチがありましたが、内容はタイトル通りの作品でした。一人の少年の死を巡る一夏の冒険を通して少年少女が成長する。そんなちょっとせつない青春小説でした。個人的にはドッペルゲンガーを残したケイタの思いに感動しました。ケイタ・・・・(泣)ということで今回はここまで。気になる方は是非手にとって読んで見て下さい。文章は分かりやすく文量もそれほどではないので割とすぐ読めると思います。それでは。

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